知的財産についての良くある質問

新しいアイデアについての知的財産権の確保は如何に行うか
我社のビジネスに関する新しいアイデアについて、知的財産権を確保したいと思っているが、まず何をすべきか。
「まずは専門家に相談すべし」というのが最も適切な回答でしょう。この分野の事案については、専門家に気楽に相談できるルートが確保されているか否かこそがビジネス戦略として重要です。
一般に、知的財産には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、不正競争防止法で守られる利益などが有り、これらはそれぞれ別個の法律でその権利内容や保護を受けるための条件が定められています。今考えているアイデアをどの分野の対象として守っていくのか、この判断の差で明暗が分かれることもあるでしょう。専門家(例えば、弁理士)のアドバイスは重要です。知識、経験の無いままでの自己判断は危険です。
そのアイデアの価値が「新しい製品」としての価値か?(特許法、実用新案法、意匠法)、「新たな製造方法」としての価値か?(特許法)、「新たなビジネス手法」としての価値か?(特許法)などの分析、判断を的確に行う必要が有るのです。更に、それらの「価値」が技術的価値か、デザイン的価値か、芸術的価値か(著作権法)などの分析も必要となります。更に、ビジネスの展開の課程で蓄積されていくであろう信用を守って行くための布石(商標法、不正競争防止法)も必要です。
また、これらの事柄についての処置は、時期を逸すると大損失となります。例えば、特許は出願前にそのアイデアを他人に公表すると権利化のチャンスを失います。知識、経験のある者との連携が不可欠の分野なのです。
職務発明についての基礎知識
当社で初めての独自製品の開発が完成に近づいている。この製品について特許出願を検討しているが発明者との間での職務発明に関する取決めは全く行っていない。今後、注意すべき点は?
職務発明に関する訴訟事件の争点は、
①権利が従業者と使用者のどちらに帰属するのか?
②使用者が権利を取得する場合、従業者に支払われる「相当な対価」の額如何?の2点である。
この様な争いを未然に回避するために適切な社内規定を設ける必要があるが、その前提として特許法がどの様に規定しているのかを認識しておかねばならない。
特許法35条1項は、従業者が使用者の業務範囲に属する発明をその職務範囲の行為として行った場合それが職務発明であると定めている。そして、発明の完成により生じる特許を受ける権利の帰属主体は、通常の発明と同様に発明を行った従業者であることを前提事項としており(同項より)、これに反する社内規定を設けることはできない。
一方、特許権が生じた場合、使用者には「通常実施権」が当然に認められ(同項)、更に、予め使用者に権利を承継する旨の定めを置くことも認めている(職務発明以外の発明では認められない)(第2項)。現実に勤務規則等でこの事前承継が規定されているのが現実であり、企業による出願の多くが発明者は従業者、出願人は使用者(企業名)となっている。
ポイントは、この承継について従業者には「相当な対価」の支払いを受ける権利が認められることであり(第3項)、判例は、状況により勤務規則で定めた対価の額を越える請求を認める傾向にあり、使用者としては、その特許発明によって得られる利益を基礎にして合理的な額を設定するように注意しなければならない(第4項より)。対価の定めがない状況で、争いが生じた場合は、使用者が受けるべき利益額や使用者が発明に関連して負った負担、貢献、従業者への処遇などが考慮されて決定される旨定められている(同5項)
飲食店などのサービス業者の商標登録の注意点
飲食店を経営しており、店舗数も店名の種類も順調に増えてきているが、これまで商標登録をしていない。今後、商標に関する問題が発生するとすればどの様なものか、またその対応策は?
商標法では平成4年4月より、それまでの商品を対象とする商標登録に加えて、サービスを対象とする商標登録をも認める様になった。サービス業とは、役務の提供を意味し、銀行、病院、学校、旅行業など幅広い業種が含まれる。質問の飲食店業もこのサービス業に含まれ、その店名は商標登録の対象になる。
従って、今後商標に関する問題が発生するおそれは十分にあり、例えば、類似する店名の飲食店が後から開業し、その店名について先に商標登録した様な場合である。その店名の使用開始時期が先であっても、それが相手の出願時に周知(広く知られた状態)になっていない限り商標権侵害は避けられず、商標の使用は止めなければならなくなる。商標法も先願主義を採用しており、使用開始時期の先後ではなく先に出願した者に登録が認められるからである。
商標権の効力は全国に及ぶので、この様な事態は近い地域間だけでなく、影響の少ない離れた地域の店との間でも生じる。
使用の中止という事態を回避するためには、各店名について商標登録を行うことが無難である。そして、登録後に開業するのが理想である。しかし、現状では商標出願から登録までの期間は約1年ほど必要である。従って、開業まで時間的余裕がない場合の的確な対応としては、開業前に候補の店名について先行登録商標の調査を行い、大体の登録可能性を確認した上で商標登録出願を行い、その後業務を開始することである。商標の出願は開業準備の一環と言っても過言ではなく、業務開始後に商標問題で店名変更を強いられることは痛手である。
実用新案権の注意点、特許との違い
同種製品を製造する他社から、その製品について実用新案権を取得したので、当社が現在行っている同種の製品の製造を中止するように申し入れがあった。この申し入れに対して如何なる対応をすれば良いか?
同業者が同種の製品について権利を取得したとしてもそれによって同種製品についての実施行為が常に権利侵害になるというものではない。特に、実用新案権の場合は、特許権の場合以上に種々の検討を要する。本件の場合、まず、2つの事を検討する必要がある。
第1に中止を求められた製品が実用新案権の権利範囲に入る製品であるのか? 第2に実用新案権は権利行使をすることのできる有効性のある権利なのか?
第1のポイントについては、実用新案権の権利範囲は、如何なるものかを確認することである。権利範囲は、実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められる。この点は特許権の場合でも同様であるが、権利範囲の解釈は容易ではなく、紙面の都合上ここで解説することは困難であるが、申し入れに対して正式な回答を要するような状況では専門家の意見や鑑定を求めることが必要となろう。もし、検討の結果、権利範囲に入らないと判断できれば、その旨回答することとなるが、権利範囲に入る疑いがあるか、可能性が高い場合には、特許権の場合、実施を中止するか、相手方との交渉を行うことになるが、実用新案の場合、更に第2の検討を行う必要がある。
すなわち、現行実用新案制度は、無審査登録制であるので、出願すれば形式的要件の審査のみで全てが登録になる。したがって、実用新案権は玉石混交の状態にあり、実体的な登録要件を充たす有効なものもあれば、権利行使を行うことのできないような権利としての価値のないものも存在する。この実体的な登録要件の審査は評価書の申請を行うことによって行われ、実用新案権者はこの評価書を提示しなければ、権利の行使をすることができない。
この様に、実用新案権は特許権のように全てが権利行使を行うことのできる有効な権利ではなく、その有効性を確認しなければならないということである。
ただ、実用新案権といえども実体的登録要件を充足する有効なものである場合には、それには独占的効力があり、その点において特許権に比し遜色はない。したがって、製品が当該実用新案権の権利範囲に入っており、評価書の評価も有効性を認めるものである場合には、実施の中止や権利者との交渉を行う必要が生じる。
特許権の活用の舞台では企業の規模(大小)は無関係
小規模の企業だが自社製品について特許権を取得した。大企業に対して特許権の権利行使をすることは可能か、また、注意すべき点は何か?
基本的に特許権の効力は企業の規模とは無関係であり、個人でも小企業でも取得した特許権を大いに活用すべきである。知的財産に関しては大企業も中小企業も同じ土俵で勝負するものであり、だからこそ特許権等の取得が個人や中小企業にとって重要な戦力となるのである。
権利行使は、通常は相手方への警告で始まるが、その回答内容によっては、相手の侵害行為の停止や予防を求める差止請求や相手の侵害行為により被った損害の賠償を求める損害賠償請求などの訴訟を提起することとなる。ただ、権利の行使には一般に以下のような注意点がある。
特許権の権利範囲は、出願書類の中の「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められる(特許法70条)。まず、相手方の行為がこの権利範囲に入るものか否かを判断しなければならない。明らかに権利範囲に入らないにも関わらず権利行使をしたような場合、逆に、営業妨害行為になったり、損害賠償の責任を負う場合が有るので慎重を要する。
相手方にも対抗手段が認められ、特許庁に対して特許を遡って無効とする無効審判を請求したり、訴訟手続の中で特許の無効を主張することが認められる。無効の主張が認められた場合、特許権者の権利行使は認められない。また、相手方がその特許権の特許出願の日よりも前から特許発明についての実施の事業や事業の準備をしていたことを証明した場合、相手方には先使用権(法79条)が認められ、権利行使を免れることも留意しておかねばなならない。
有用な技術は特許を取ってこそ実施化が図られる!
ご老人や身体に障害を持つ方の介護用の装置について画期的なアイデアが生まれたが、これを一般に早期に普及するためには独占権たる特許を取得しない方が良いか?
特許制度で独占権が付与されるのは、むしろ有用な技術を可及的速やかに一般に普及するためです。特許権の付与には、発明完成までに費やした労力や投資の回収の機会を担保するという意味だけではなく、その発明の実施化を促す意図があります。一般に、独占状態というものは、好ましくない状態と捉えられがちですが、特許制度においては独占が命であり、独占権を公共の利益のために活用する制度なのです。例えば、ある技術を自由に実施して欲しいという意図で公表して特許を取らなかった場合、その様な良心的意図とは逆に、その技術は誰も実施せず日の目を見ずに終わるのが現実でしょう。せっかくの介護技術が埋もれてしまうことになるのです。歴史的な実例を1つ、ペニシリンの発明者、英国のフレミングは、医薬分野での発明の特許化は道徳に反するとして特許を取得しませんでした。しかし、このことで、ペニシリンの製品化は米国で成し遂げられるまで大幅に遅れ、多くの細菌感染者の人命を救う機会を失いました。
この様に企業が実施化の努力をできるか否かには独占権の有無が大きく関わるのです。そして、実施化されない結果、不利益を被るのは、その技術の恩恵に預かることのできないご老人や身体障害者の方ということになるわけです。
独占権を取った後、自ら実施の意思がない場合は、実施権の設定や権利の移転により他者に実施させるという道もあります。少なくとも社会福祉に貢献できる技術は開放する方が公益に資するという誤解は改めるべきです。その介護用装置の早期実施化と一般への普及のために是非とも特許権取得の努力をすることをお勧めします。
特許と意匠との違い?
製品開発の結果生まれた1つの新たな形状を持つ製品について、特許を取るのは難しいが意匠登録なら可能性があると言われたが、どういうことか?
特許の対象である「発明」は技術的なアイデアであり、一方「意匠」は物品の美的な外観形態(デザイン)である。従って、両者は根本的に異なるものであり無縁のものと考えられる。しかし、同じ「対象物」について、同時に特許権と意匠権が付与される場合がある。それは、一つの物の形態(形状等)が技術的な観点においても有用な価値があり、またデザイン的な観点からも斬新さがあるような場合である。
例えば、医療用のピンセットについて、ある形状を採用したことで持ち易く、細かい物を挟み易いという技術的効果が生じたとする、その場合、その形状が同時にデザイン的にも斬新で美しいと評価される場合、特許、意匠の両方で権利取得の可能性があるのである。
その形状が、美しさを追求した結果得られたものか、技術的効果の追求の結果得られたものか問われない。右の質問の状況は、例えば、そのピンセットの形状が美的なデザインの側面からは優れているものの従来のピンセットに比して特許が付与されるほど使用性が向上していない様な状況である。
同じ製品形状について特許出願と意匠登録出願を行うことで双方の権利を得た場合、その権利範囲はどの様なものであろうか。特許権の効力範囲は、技術的な「アイデアとして同一性」のある範囲に認められ、意匠権の効力範囲はそのデザインと「類似」する範囲まで認められる。一般的には、意匠権の権利範囲の方が狭いと考えられるが、必ずしもその様な場合だけではなく、特許権で抑えられなかった他人の製品を意匠権で抑えることができる場合もある。
特許を取ることができるか否かと自由に実施できるか否かとは別問題
新たな冷凍食品を創作したが先行出願の調査を行ったところ、販売は可能であるが特許取得は困難とのこと、今後、製造販売を行うに当たって商標権だけを取得することの可能性と意義は?
特許等の事前調査を行うことは、販売開始後の知的財産権をめぐる争いを未然に回避するためには賢明なことである。そして、特許の取得ができない場合でも、他人の特許権を侵害しない限りその商品を販売することは可能であるし、商標権の取得も勿論可能である。
特許権がなければ商品のヒットは望めないというものではなく、商品の品質や営業努力によりヒット商品になり得る。その場合、商標権を確保していれば大きなアドバンテージになる。なぜなら、需要者はその商品とその名前(商標)を結びつけて認識しているので、再購入する場合、その商標を頼りに購入するのが通常である。その状況で、その商品の名前が商標登録されていれば、同じ又は類似する商標を他人が使用することを禁止することができ、結果、商標権による他者の牽制、シェアの確保が可能となるからである。
商品がヒットして有名になってしまえば、商標登録をしていなくても不正競争防止法で他人の商標使用を差し止めることはできるが、有名になる過程で真似されれたり、有名であることの立証ができなければ同法による対応は難しい。一方、商標権を有していれば、自分の商標が有名か否かにかかわらず他人による使用を差し止めることができる。
また、商標登録に際して未経験者に多い勘違いは、出願を登録と同一視したり、商品の一般名称や普通名称まで登録できると思っていることである。出願しても要件を充たさなければ登録は拒絶されるし、食品の様な場合、材料名を列記した様な名称は登録されない。一ひねりした名称にすることが必要である。なお、食品の場合、意匠登録の可能性についても検討すべきである。
外国で見つけた商品を日本で販売する場合の特許に関する注意点
外国で売れている商品(日用品)を日本で販売したい。日本で市場を調べたが、同種商品は未だ販売されていない。できれば日本で特許を取得した上で輸入するか自ら製造したいと考えている。注意点は何か?
外国で既に市場に出ている商品について、日本で特許を取得することはできない。特許権は各国毎に審査されて発生するものではあるが、日本の特許法二九条一項では、日本国内は勿論のこと外国で既に知られていたり、実施された発明も特許されないと規定されている。これは、特許が与えられるための要件である発明の新しさ(新規性)は、日本国内だけでなく世界を基準にして判断されるということである。
また、未だ市場に出ていないことをもって誰も特許を取得していないと即断してしまうという誤解も良くある。商品が流通しているか否かと特許が確保されているか否かは必ずしも直結することではない。日本で誰も実施していない商品であっても特許出願がされ、或いは特許権が取得されていることは良くあることである。したがって、市場に存在しない物でも新たに商品を製造したり輸入して販売する場合は、事前に特許権や特許出願の有無を調査して、特許係争に巻き込まれないようにすることが大事である。
以上のことは、実用新案権や意匠権についても同様である。また、外国からの輸入についても勝手に行うことは要注意である。外国の特許権者が日本でもそれら商品について特許、実用新案、意匠などの権利を取得している場合、いわゆる並行輸入の問題となる。特許に関しては並行輸入は如何なる場合にも侵害にはならないというものではなく、例えば製品に関して日本における販売を行わない旨の表示がなされていれば、そのような製品を輸入することは権利侵害になる可能性が高い。
特許出願後、特許取得までは、製造や販売はしない方が良いか?
新たな発明に基づく製品を早期にビジネス化したいと考えているが、特許権を取得するために二~三年掛かると聞いた。特許取得まで待っていたのではビジネスチャンスを失う。何か手段はないか。
特許出願から特許になるまでの時間は、現在2年ほど掛かっている。従って、質問の様にビジネスの進展と特許取得の時期のズレは生じ得ることである。
しかし、特許権の付与がなされるまで、その技術についてのビジネスの開始を待たなければならないと考える必要はない。他者の特許権等を侵害しないことの確認ができれば、その技術をビジネスとして実施すること自体に問題はない。
また、全ての特許出願は、出願日から一年半経つと公報にて公表(出願公開)される。そして、この出願公開後は他人が同じ技術を実施している場合には、出願人はその者に対し警告を行うことができ、警告後、特許付与までの期間についても実施料相当の補償金を請求することが認められる。更に、この出願公開の時期を早める請求を行うことも認められる(特許法六四条の二)。
更に、一刻も早い特許権の取得を望む場合には、早い時期(出願と同時でも良い)に審査請求を行うことが必要であるが、加えて早期審査制度の活用を行うのが良い。その条件は、その発明が実施を行おうとしている発明である場合、既に外国への出願を行っている場合、出願人が大学や公的機関である場合、出願人が中小企業や個人である場合などであり、自ら先行技術の調査を行った上で申請することができる。この制度によって早期の審査が行われると上述の出願公開前に特許権の付与がなされることもあり得る。
この様に、出願後の発明の早期保護を図るために種々の制度が設けられており、この様な制度の積極的な活用により、ビジネスにおける特許権の早期活用も可能となる。
製品に付されている「特許出願済」や「特許出願中」の表示の意味は?
商品や商品のケースに「特許出願済」や「特許出願中」等の表示、更にこれらと共に複数桁の番号の表示がなされているのを見掛けるが、この様な表示は如何なる意味を持っているのか?
一般に、「特許」の文字が表示されると独占権が生じていて、似た商品について製造販売すると権利侵害の問題が生じると認識されている。従って、「特許出願済」等の表示を見ただけでその様な独占権が生じているものと考えてしまいがちである。しかし、「特許出願」がなされたという状況は「特許権が付与された」という状況と全く異なる。例えていうなら、○○大学に願書を出しただけの状況と試験を受けて合格した状況との違いである。願書を出すのは誰でもできるわけで、特許出願も同様である。特許になる可能性の全くないものでも「特許出願中」という表示が可能なのである。勿論、願書を出した以上、合格の可能性、すなわち「特許権が付与される」可能性も有るわけで、完全に無視して良いとは言えない。しかし、直ちに警戒しなければならないという状況ではない。
通常、特許権を取得した状況であれば、「特許第・・・号」等の表示(特許表示)がなされるので、単なる出願されただけの状況とは区別が可能である。仮に、特許出願をしたに過ぎない状況で特許権が付与されていないにもかかわらずこの特許表示をすることは禁じられており(特許法188条)、違反すると罰則も課される。出願済や出願中の表示、出願番号の表示だけで慌てることはないが、出願後の経過が気になる場合は、専門家に相談して経過を確認するか、特許庁のデータベース(特許電子図書館)で自ら検索することもできる。この検索は出願から1年半以上経過して出願公開されていれば、出願内容の確認も行うことができる。特許出願は厳格な審査を受けた後、特許になるものであり、因みに我が国での特許率は出願全体の5割強程度である。
特許になるか否かの審査は、誰がどのように行っている?
特許出願すれば必ず特許になるものでないことは分かっているが、誰がどの様な基準で特許の審査を行っているのか知りたい?
特許出願は、特許庁に必要な書面(発明の内容を記載した明細書や図面など)を提出することにより行われる。不備なく適法に特許出願がなされると、出願番号が付与される。オンラインでの出願の場合、出願してから瞬時の内に出願番号が返信されてくる。ただ、この出願番号の付与は形式的なもので発明の内容の良し悪しとは関係がない。
発明の内容についての審査を受けたい場合は、この出願手続とは別に出願審査請求という手続を特許印紙を付して行わなければならない(今年4月に料金値上げがなされ現在、約16万8千6百円+4千×請求項の数)。この出願審査請求が行われると、特許庁の審査官(国家公務員であり、当該技術分野の専門家)による審査が行われる。
審査官による判断は、法律に定められた要件を充たすか否かという判断であり、審査の統一を図るため種々の審査基準が定められている。基本的な特許要件としては、新規性(出願した時点で新しい技術であること)、進歩性(出願時の技術水準から容易に想起できるものでないこと)、先願性(同じ内容の発明について最先に出願していること)、産業上利用性(広く生産業、更に金融業や保険業において実施できること、医療業については発明の内容によっては特許の対象外となる)、発明性(法定の発明であることの要件を充たすこと、単なるビジネス上の手法は発明でないとされることが多い)などである。
上記審査請求の手続が行われるのは出願全体の5割強であり、審査された結果、特許が付与されるのは更に5割強である。したがって、全特許出願の内約3割が特許となる。特許出願はしたものの3年以内に審査請求の手続をしなかった出願は取り下げたものとみなされる。
意匠権の権利行使について
当社の製品について意匠権を取得しているが、他者が同じ物を製造販売していることを発見した。当方の売り上げも落ちている。如何に対処すればよいか?
意匠権は、新たに創作された物品のデザインについて与えられる権利であるが、特許権等と同じく独占権である。従って、無断で意匠権の対象となっている物品を製造したり、販売したりする者があれば、意匠権者はこれに対し権利を行使することができる。
まずは、相手方の商品が意匠権の効力範囲の商品か否かを判定する必要がある。登録されている意匠と同一もしくは類似する範囲までが権利範囲となる。権利範囲であると判断される場合、まずは警告状を送付するのが通常であり、相手方に製造販売の中止を求め、或いは更に権利侵害期間の実施料の支払いを求める。この警告状で相手方が侵害行為を中止し、実施料の支払いに応じればそれで一件落着となる。しかし、相手方が、警告を無視したり、侵害ではないとの見解を有している場合、更に訴えを提起することになる。
基本的には、差止請求(意匠法三七条)といって相手方の実施行為の停止や予防を求める訴えを起こす。更に、意匠権者において売り上げが落ち、損害が生じている場合、損害賠償の請求を行うことができる(民法七〇九条)。この損害額がどの位になるのかの算出は非常に難しいことから、意匠法は特許法と同様の手法で損害額の算定ルールを規定している(意匠法三九条)。
簡単に述べれば、侵害者が販売した侵害品の数量に意匠権者の製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を損害額とすることが原則として認められる。
この様に、意匠権も特許権とほぼ同様の権利行使が可能であり、意匠権者は特許権を取得していないからといって遠慮する必要はないし、逆に侵害者は意匠権だから損害賠償額も特許権の場合より安い等と考えていると大変なことになる特許権と同様に侵害とならないように注意しなければならない。
既に製造販売している製品についての権利取得は可能か?
知的財産権の確保と活用を図るため、まず当社でこれまで継続して製造販売してき製品について改めて特許出願を行いたいと思っている。その場合の注意点は。
特許出願の経験の少ない企業においてよく見受けられるミスは、大事な技術について特許出願を行う前に公表してしまうことである。出願検討の段階で、既にその製品の販売を行った事実、パンフレットを配布した事実、関連業者に内容を説明した等の事実が明らかになることがあるが、取り返しのつかないミスである。如何に有用な発明であっても特許出願を行う前に公にしてしまうと特許権を取得できなくなる。これは、特許出願の時点でその発明が新しいこと(新規性)が特許権付与の条件となるからである(特許法二九条一項)。
同条一項一号では特許出願前に「公然知られた発明」は特許を受けることができない旨定められている。「公然知られた」であるから、不特定多数の者に製品説明を行った場合がこれに該当することは勿論、1人であっても「守秘義務」のない者に知られた様な場合もこれに該当する。従って、特定の他社に当該製品の製造協力を仰ぐような場合でも、後にその他社の守秘義務を明確にできるように覚書を交わすなどの方策を取るのが賢明である。
上記質問の様に既に販売した製品についての発明は、同第二号にいう「公然実施した発明」に該当し、もはや特許を取得することはできない。新聞などの刊行物やホームページに製品の内容を掲載した場合も同様である(同三号)。特許法30条には所定の条件の下に例外が設けられているが、この例外に頼らず、公表前に特許出願をするのが無難である。
知的財産権の有効期間と期間満了後の扱い
特許、実用新案、意匠、商標の有効期間はどの位か、また、有効期間が切れた後はどの様に扱われるのか。
各権利には存続期間と呼ばれる有効期間が有り、特許権は出願の日から20年(薬剤等については延長制度が有る)、実用新案権は同じく出願の日から6年、意匠権は出願の日から起算するのではなく、権利の設定登録の日から15年、そして、商標権は意匠権と同じく権利の設定登録の日から起算され期間は10年。但し、商標権の場合は、他の権利と異なり、更に10年間更新することができる(更新登録の申請を行うことによる)。この商標登録の更新は10年毎に何回でも行うことができるので、商標権は権利者が希望すれば永久に存続し得る権利と言える。
この様に各権利それぞれ独自の存続期間を持っているので注意しなければならない。
存続期間が満了すると、権利の効力はなくなる。すなわち、特許権や実用新案権であれば、その発明や考案と同じ技術について誰でも製造や販売することが許される。また、意匠権については、同じデザインの物を製造販売することが許されるようになる。商標の場合、更新がされなかった商標権については、同じ商標を他人が商標登録できるようになる。特許、実用新案、意匠では既に自由に実施できるようになった万人の共有物たる技術やデザインであるから再登録はできないが、商標は登録されてこそ取引者や需要者の保護(出所の混同の防止など)につながるものであることから再度他人による登録が認められる。存続期間の満了が待たれて、満了と同時に他の者が実施を始めるような技術やデザインは、年を経ても価値の存する素晴らしいものであると言える。
実用新案の利用価値は?
実用新案制度は、無審査登録になって以来、利用価値が低下してしまったのか?
平成6年に無審査登録制度に移行して以来、確かに出願件数は大幅に減り、現状は年間1万件を切る程度である(特許出願は40万件超)。改正当時、新実用新案制度の負の面のみが多く指摘され、制度廃止論まで飛び交った様である。例えば、存続期間が出願から10年と短い(特許は20年)、出願後、内容を修正することができない、特許出願への変更(乗り換え)が困難、権利行使をするには結局、審査(評価書)を受けなければならい、権利行使をした後、登録が無効になった場合、無過失を立証しなければ損害賠償責任を負う等である。
しかし、特許出願は厳しい審査を経て初めて権利が付与されるが、権利行使の際に無効になる事案も少なくない。評価書が肯定的でも無効になる実用新案権が有るのはむしろ当然である。そもそも将来無効になる様な考案だけを想定して、制度の利用価値を議論するのはあまりに悲観的過ぎる。真に要件を充たし無効理由のない様な優れた考案については、迅速な権利化・権利行使が可能であるという利点は大きい。むしろ使い方次第で利用価値のある強力な戦力になるであろう。実用新案制度は再び改正され、上述した負の面がかなり解消されて来ている。存続期間が6年から10年に延び、出願から3年間は登録後であっても特許出願への変更が可能となった。制度廃止論などは存在しない。
そもそも、実用新案と言えども侵害の場合の損害賠償の額が特許より低くなるというものでもないし、裁判において無効の判断のなされる事件が多くなっている特許よりも無効になりにくい実用新案権の価値は高まって行くと思われる。
個人で出願を行って、拒絶理由通知を受けた場合の対応は?
特許出願を自分で行ったが、今回特許庁から拒絶理由通知が届いた。どの様に対処すれば良いか。
この種の質問は特許相談において非常に多く、この状況では十分な対応ができない場合も多い。そもそも十分な経験も法的な知識もない者が自分で書類(明細書や特許請求の範囲)の作成を行って特許出願するのは無謀と言わざるを得ない。ビジネス上有用な技術アイデアについて出願する場合は特にそうである。特許法の専門家であっても明細書等の作成に当たっては種々の実務経験や研鑽を積むことが必要なのである。
特許出願の書類は、特許庁における審査や裁判所における権利侵害の判断に堪え得る様に対象発明を明確に開示しなければならない。従って、その記載の仕方には一定の法律上の要件が課されている(特許法三六条)。住所や氏名や発明の名称などの形式事項を記載すれば良いという類の書類ではない。この明細書等の書き方が法定の要件を満たしていて初めて、発明の実体的な審査(新規性や進歩性の判断)を受け得るのである。そして、特許後は出願書類は権利書としての役割を果たす重要書類となる。
質問の様な拒絶理由通知の多くは、この出願書類の書き方の不備によるもの(法三六条違反)である。この場合の特許庁への対応は、当初の出願書類に記載した範囲でしか修正が認められないので殆どの場合、十分な対応はできない。まして、特許法の知識のない個人での対応は極めて困難であろう。将来的アドバイスとしては、少なくともビジネスにつなげる可能性のある発明の出願書類作成を少ない知識経験のまま自ら行うことは危険ということである。
飲食店の店名の商標登録
新しい飲食店名として当店のオリジナルメニューの名前を使ったものに決定した。商標登録出願をして使用したい。何かアドバイスを。
商標は思いついた名前を何でも出願すればそれで保護されるという簡単な制度ではない。商標法で定められた種々の要件をクリアして登録されなければ、出願しただけでは実質的な権利は発生しない。
飲食店の店名は重要なものであり一旦使い始めたら安易に変えるわけにはいかない。従って、商標の使用を開始した後で登録できないという事態は避けなければならない。即ち、登録の可否の判断を十分に行って出願をすること、そして、可能なら登録を待って使用を開始するのが賢明である。
出願前の検討としては、まず、商標としての基本的機能(自他商品識別力)を発揮できる商標であるか否かを飲食物の提供というサービスとの関係から判断する。その商標が一定の出所を表示できるか否かを判断するということ。オリジナルメニューの名前がそのメニューの材料名を列挙しただけのものであれば、この要件を満たさないであろう。更に、商標法は先願主義を採用しており、同様の分野で先に登録されている商標と同一か類似の商標は登録されない。その他、他人の業務に係る商品や役務と混同する様な商標、品質の誤認を起こさせる様な商標など、公益、私益の両面から種々の登録要件が定められているのでこれらの検討が必要。調査、検討の結果、類似する他人の登録商標が存在することが判明した場合、即刻使用を止めなければ、故意に商標権侵害を続けることになってしまう。商標の選定や出願をあまり簡単に考えると、商標の使用で築いて来た信用を一旦リセットせざるを得ないという大失敗につながるということである。
他社が特許出願している内容を調べる方法は?
同業他社が先に出願した発明についてその内容を閲覧することができれば便利であるが、その様な方法はあるか?
誰でも他社の出願した内容を閲覧することができる。特許法では出願公開制度が採用されており、出願から1年半経過すると全ての特許出願の内容は公開公報に掲載されて公にされる。
すなわち、特許出願から1年半経過後は秘密に保たれないということであり、誰でも公開公報を閲覧することで内容を検討することが可能になる。この出願公開制度の役割は大きく、有用な技術の公開によりその分野の技術レベルを一気に向上させることは勿論、多くの企業の技術情報収集のソースとなっている。
事実、他社の出願した内容を早期に知ることで更なる発明を行うための有用な基礎資料となり、また、研究のための投資や労力が重複することが防止される。公開公報はアイデアの宝庫であり、特に中小企業においては知財戦略の基礎として大いに活用すべきである。
出願公開は発明の質如何に関わらず行われるので、公開されただけでは何らの権利も付与されない。しかし、この公開公報を見て無断でその発明の実施した者に対しては、将来その出願が特許になった場合、所定の条件の下に特許権者は補償金を請求することができるものとし出願人の保護が図られている。
他社の出願内容の閲覧は、公開公報だけでなく、公告公報(平成6年まで発行)や特許公報の閲覧も可能であり、これらは特許要件をクリアしたものであり、有用性の高い技術情報としての価値がある。これらの閲覧は、特許庁のホームページから無料で行うことができ、技術に関するキーワード、出願人の名称、各公報の番号等から検索することも可能である。より正確な調査や判断が必要な場合、専門家に相談することをお勧めする。
特許権の存続期間について、満了後はどうなる?
ある部品の製造メーカーです。製品の一つについて特許権を取得し、その後、改良品についても特許権を取得しました。今年の暮れに最初の特許権の存続期間が切れるのですが、改良特許の方は未だ存続期間が数年間残っているので問題はないと思いますが、注意点を教えて下さい。--存続期間の切れた特許権はどの様に扱われるのですか。
「特許権の存続期間は、いわば特許権の有効期間です。特許権者の独占的地位の保護と、公に特許発明の利用の機会を与えることとの調和を図るため一定の有効期間が定められています。存続期間は、特許庁に出願した日から二〇年で、その間は特許権者はその製品の製造販売を独占することができ、その期間終了後は誰もが自由に実施できる様に開放されます。実際に、特許発明の中には出願の日から20年経過してもまだその有用性が残っているものもあり、その様な特許はその存続期間の満了が待たれているのです。「ゼネリック医薬品」が正にこれに該当し、「ゼネリック医薬品」は特許権が切れた後、特許権者だった者以外の会社が製造販売している医薬品の通称です。その様な製品は、研究開発費の回収等の必要がないため、低価格となり一般利用者にとってもメリットがあります。
<1つの特許権の存続期間が終了してもその改良発明について特許を取得していれば他社の参入は抑えることができるか>
「少なくとも存続期間の切れた特許の対象となっている製品については、誰でも製造や販売ができる状況になり、これを回避することはできません。勿論、存続期間の残っている改良発明の特許権については、その特許権の存続期間が終了するまで他社の参入を防ぐことができます。すなわち、基本製品Aと改良製品Bが存在し、基本製品Aについて存続期間が満了した場合、改良部分を備えていない製品Aについては、他社も製造販売が可能になり、参入を抑えることはできません。
<他社も当該製品について特許を取得し始めていますが、当社も改良発明を特許化することでこれに対応できますか>
「特許権は時間的に有限ですから、現存の特許権でシェアが確保されていても何年か後にはその状態は確実になくなるわけです。したがって、製品のシェアを確保するために、研究開発とその成果としての改良発明の権利化の努力を継続することは非常に重要です。
また、改良発明の特許権についての注意点は、特許が付与されたとしても改良の基礎となる製品について他社が特許権を有している場合、利用発明となり無断で実施できないという点です。実施には基礎部分の特許を有している他社の許諾を要します。」

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