論文紹介

弁理士 江藤聡明が、「発明の本質」に関連してこれまでに作製してきました論文をご紹介させて頂きます。

発明の本質に関する4部作

第1部(1999年)

【機能表現クレームへの均等論の適用如何】

1999年パテント誌52巻6号掲載
担当 江藤聰明

1.はじめに

  ボールスプライン軸受事件の最高裁判決により、均等論の適用が承認され、その適用要件が示された。我が国でも今後はこのお墨付きをもらった均等論が全ての特許権の権利範囲を判断するにあたって検討されるのであろうか。特許請求の範囲の記載の仕方は様々であり、特許請求の範囲において発明の構成要素を限定する技術的な概念も広狭様々である。この様な特許発明の構成要素の限定概念の種類や広狭の如何に関わらず、全ての特許発明に対して適用される理論として均等論が存在するのであろうか。特に、機能表現クレームに係る特許発明に対してはどうなのか。
 平成6年の特許法第36条第6項の改正により、機能的に発明の構成を記載することの許容性が広がったが、できるだけ無用な限定を避けるため機能的表現を用いてクレーム作成を行うのは特殊なことではない、今後はより一層そのようなクレームの特許権が発生してくることは予想されることであり、そのような機能表現クレームについての特許権の侵害事件の発生も当然予想される。
 この様な状況を背景として、サブタイトルで示したようにそもそも機能表現クレームに均等論の適用はあり得るのかという疑問をその起点として機能表現クレームに係る特許権の権利範囲について検討してみたい。

2.機能表現クレームの範囲の意義

 「機能表現クレーム」とは、発明の構成要素が機能により表現されている特許請求の範囲のことである。しかし、ここで言う「機能」とは何か、これをできるだけ明確にしておかなければ、検討の基盤が不統一であると言うことになりかねないのでその確認を行う。
 「機能」に近い概念として、「作用」、「効果」という概念がある。これらは、表面的には、米国の「function」,「operation」,「effectorresult」などの語に相当する。また、米国における均等論についてのリーデイングケースであるGraverTank事件で示された均等論適用のための基準である3要素は「function」,「way」,「result」である。そもそも外来語の翻訳である「均等論」にからんで「機能」の意義を考える場合には、このような要素との関係を検討してみる必要は有ろう。しかし、本稿は、我が国において許容されている特許出願での機能表現クレームの権利範囲をテーマにするので、その定義としては、上記英語表現の本質的意味にこだわらずに考えることとする。
 すなわち、「機能」とは、「一定の結果(効果)を導く作用」であり、「その作用を奏する具体的な構成を選択的に設定できる可能性を持つもの」であると考える。したがって、作用と効果の双方を含む概念であり、かつ具体的な構成要素までは特定されていないものである。この意義に基づいて以下の話を進める。
 したがって、或る「手段」や「部材」をその属性や性質で限定するような場合は、ここで言う機能表現ではない。例えば、「弾性手段」の様なものは、それ自体ある幅を持っており、かつその下位概念に当たる具体的な構成を選択的に設定できる可能性を有してはいる。しかし、「弾性手段」は、その属性を示すのみで、作用も結果も示していない。すなわち、弾性を有する手段ではあっても、緩衝作用を奏するのか、反発作用を有するのか等、その作用、結果が明確にされていない。したがって、機能的表現ではない。このような属性や性質により限定した構成要素を有する発明については、通常の基準、要件に従って均等論の適用の有無が判断されれば良いと考えられる。
 機能表現クレームの典型例は、いわゆる、米国のmeansplusfunction(機能+手段)で表現された構成要素を含むものである。例えば、衝撃を和らげるための何らかの手段としての「緩衝手段」と言うようなものである。作用と結果を併有する概念である。
 なお、本稿では、全体が機能的に表現されているのか、部分的であるのか、或いは、発明の本質部分が機能で表現されているのか、非本質的部分であるのか等は特に問題にしないが、それらを場合分けして分析することも1つの検討ポイントであると思われる。

3.機能表現クレームの我が国での取扱い

 特許請求の範囲において、「~~手段」という「機能」+「手段」表現で発明の構成要素を記載することについて、特に規制されているわけではなく、特別な不利益も受けることはない。このことは、上述のように平成6年の改正により、機能表現クレームがより広く容認されるようになる以前でも同様である。
 また、「平成6年改正特許法等における審査及び審判の運用」(発明協会発行)(以下、単に「運用基準」という)では、機能表現クレームを用いる場合の留意点として、「発明の外延が明確であること」をあげている。例えば、その機能を奏する具体的手段を直ちに認識できるような場合は明確であるとされる。これは、特許法第2条第1項で、発明が「技術的思想の創作」であると明示されていることとの関係から、特許請求の範囲においては、「技術的思想」として把握できる程度に構成要素が記載されていれば良いと言うことを基本とするものと解される。
 また、「機能(AA)」+「手段」で表現された構成要素の部分は、審査段階においては、当然そのような「機能」を有する「手段」全てが審査対象とされるものであり、明細書に記載された実施の形態の具体的構成のみが審査対象となるわけではない。したがって、実施の形態に記載された構成には新規性が有るが、「AA手段」に含まれる他の具体的構成、あるいはそれに近似するものが既に公知の場合には(他に特徴がない限り)、対象発明に新規性や進歩性がないものとされる。したがって、実施の形態の構成に減縮しない限り、少なくとも新規性は否定される。したがって、「AA手段」が審査を経て特許要件を充たすものとされ、特許権が付与された場合には、権利範囲も「AA手段」の概念に含まれるもの全てに及ぶのは当然と解される。

4.機能表現クレームの権利範囲が縮小方向で検討される場合

機能表現クレームの場合、機能を奏する範囲全てが権利範囲となるとは言え、その記載が抽象的過ぎて、発明の構成が明確に把握できないような場合、すなわち技術的思想として把握できる程度に至っていない場合、話は別である。この様な場合、中核となる技術思想が明確になっていないのであるから、その文言よりも広げた権利範囲を設定しようとする「均等論」の適用はそもそも困難である。 むしろ、この場合、明細書(実施の形態)の記載からのみ技術思想の把握が可能であるとするなら、その明細書(実施の形態)の記載から権利侵害の問題が検討されるという権利範囲の縮小方向の検討はやむを得ないであろう。
 このような考え方の判例としては、ボールベアリング自動組立機事件(東京地裁 昭和44年(ワ)第6127号)やコインロッカー事件(東京地裁 昭和50年(ワ)第2564号)などが挙げられる。
 前者の判決は、「計測手段」と「組立手段」との「協力」が単に課題の提示であり、抽象的で特許請求の範囲のみからはその発明が明確に把握できないとされ、明細書の記載を基に技術的範囲に属するか否かが判断された(高裁判決も「図面及び明細書全体の記載から、そこに如何なる特定の技術的思想が開示されているか合理的に解釈して確定するほかない」としている)。後者の判決も、クレーム記載が抽象的過ぎることをもって、明細書、図面の記載に限定して解釈されたものである。
 これらの判決の対象となった特許請求の範囲の記載は、発明の各要素は機能表現で限定されていると言えるかもしれない。しかし、各構成要素の機能と発明全体から生じる結果のみが示されているだけであり、各構成要素の機能が関連づけられていないので、発明の全体としての機能は明確になっておらず、請求の範囲のみからは発明が明確に把握できない。
 上述の運用基準によれば、請求項自体からはその機能の意味するところが明確でないが明細書や技術常識に基づいて解釈すれば、その外延に含まれる具体的な物を理解できるような場合も特許法第36条6項第2号を充たす(発明の外延が明確である)ものとされている。上記の判例のような抽象的すぎる請求の範囲と1つの具体例の記載された実施例を有する出願が、この様な考え方で現行の第36条違反でないとされるとすれば、今後もそのような特許権は少なからず生じるものと考えられる。そして、この様な場合は、不完全な機能表現(発明全体としての機能が明確にされていない)で特許請求の範囲が記載されているために、明細書の記載を拠として権利範囲縮小方向の検討がなされるのもやむを得ないと考えられる。
 ただ、特許請求の範囲の記載のみからは直ちに発明の機能が明確になっていないが、明細書の記載を参酌すると請求の範囲の記載における発明の機能が明確に把握できるような場合は、上記のような明細書に記載された具体的な物のみからしか技術的思想が捉えられないような場合とは異なる。したがって、その明確になった機能の範囲全体が特許権の範囲とされるべきであり、明細書の記載を基に縮小されるべきではない。
 なお、上記明細書の記載を拠とした権利範囲縮小方向の検討がされる場合、実施の形態の具体的構成を基にしてどの範囲まで権利範囲を認めるのかについては、一つの検討事項である。本稿は、機能表現クレームの均等論の適用についてを主たる検討対象としているので、そもそもクレームについての均等論の適用のできない場合についての上記検討事項についてはここでは触れない。

5.米国における機能+手段表現のクレームの権利範囲

(1)USP第112条第6段の背景

ミーンズ+ファンクションの表現で組合せにかかるクレームを記載した場合、USP第112条第6段の規定が適用される。
 本規定の歴史的背景は、1946年のHalliburton判決において、ミーンズ+ファンクションで記載されたクレームについて無効である旨の判示がなされ、そのような形式のクレームに対する規制が行きすぎた(厳しすぎる)傾向となったことから、このような傾向を修正するために、1952年に法改正がなされ、ミーンズ+ファンクションのクレームが許容されること、及びその取り扱いが明確にされたものである。したがって、もともと我が国で考えられている発明の概念(特許法第2条1項の定義)と米国の発明概念が異なることからこのような規定の有無の差が有ると言うことではない。

(2)USP第112条第6段の趣旨

本規定は(規定の前段、後段で)、少なくとも以下の2方向に機能している。一方は、組合せにかかるクレームの記載にあたってはミーンズ+ファンクションの形式で構成要素を記載することを認めること、他方では、そのクレームの範囲を明細書に記載したものの均等物に限定するということである。
 すなわち、1つは、発明の構成要素を機能のみで限定することで、その機能を奏する全ての代替物に対応するクレームの作成を行うという負担を解消し、また、具体的な構成に限定することによるクレームの範囲の狭小化を回避するという出願人の利益の方向であり、もう一つは、クレームの文言で示された構成の範囲の広がりを制限しようという公衆の利益保護の方向である。
そして、この規定は、審査においても権利範囲の解釈においても意味を有する規定である。

(3)我が国の上記判例との相違

このUSP第112条第6段の規定が適用されるのは、ミーンズ+ファンクションの形式で記載されたクレームが抽象的過ぎて発明が把握できないからではない。そのような発明が不明であるという適用要件はなく、少なくともミーンズ+ファンクションの形式で記載されているもの全てに適用される規定である。したがって、先に例示した我が国の2つの判決(ボールベアリング自動組立機事件、コインロッカー事件)の考え方とは基本的に異なるものである。すなわち、上記2つの判例は、明細書の記載に基づいて権利範囲を限定して解釈したと言う点ではUSP第112条第6段の規定の内容に近い結果となっているが、基本的な理由は、クレームのみからはそもそも技術的思想が明確に把握できず、実施例の具体的内容に基づくよりなかったというものであり、全く異なるものである。

(4)いわゆる「均等論」とは異なる理念

USP第112条第6段の規定は、クレームに基づいて、その文言を越える範囲に権利を認めようとするいわゆる「均等論」の考え方ではなく、クレームの文言上侵害についての話であり、実施例に記載のものについての「均等物」という判断基準を設定したものである。我が国よりも特許請求の範囲に基づく権利範囲(均等論)の解釈についての判例や検討の進んでいる米国において、ミーンズ+ファンクションのクレームという機能表現クレームは、その機能が明確か否かの問題は別として、一律に文言(機能)そのものから把握される権利範囲に対して、それを制限する方向で取り扱われているのである。このことは、我が国において、機能表現クレームの権利範囲を検討するにあたって1つの参考になるものと考えられる。

(5)日米の対比

日本には、USP第112条第6段の様な規定はない。日本で、複数の構成要素の組合せに係る発明について、その構成要素をミーンズ+ファンクションの形式で記載した場合、上述のように明細書の記載要件(特許法36条)としては特に問題はない。例えば、「緩衝手段」、「連結手段」、「絞り手段」、「昇降手段」・・・などの表現が用いられた場合、発明が明確に把握できる限り記載要件は充足していると解される。
 更に、現在、我が国では、組合せではなく単一の構成要素の発明の場合でも、それが技術的思想として明確に把握できる限り機能表現クレームで記載することが可能である。米国では、このような単一の手段を機能的表現で記載することはfunctionalとして許されない(米国特許審査便覧706.03(c)→singlemeansclaim)(米国特許実務用語辞典、AIPPIJAPAN発行、第3版240頁)。USP第112条第6の前段の要件を満たす場合(組合せに係るもの)だけ機能表現クレームが認められているものである。
 例えば、我が国では、A+B+C+Dの構成要素からなる特許発明の内のCの要素が「緩衝手段」の場合、明細書には「バネ」という具体的な手段のみが記載されていても、「緩衝」機能を有する手段であれば権利範囲に含まれる。
 一方、米国では、明細書の実施例には「バネ」のみが記載されているような場合、侵害の判断においては、イ号物件の緩衝手段が「バネ」と均等物であるか否かが判断される。したがって、我が国で認められる権利範囲は米国のそれに比べ、広くなる可能性はあるものの狭くなることはない。我が国では、公知事実参酌や意識的除外などの特殊状況が存在する場合には、限定される可能性はあろうが、基本的には全ての「緩衝手段」が権利範囲となる。

6.機能表現クレームの文言上侵害と均等論適用の区別並びに問題の指摘

イ号物件の1つの構成要素が、機能表現された特許発明の構成要素である「~~手段」に含まれるか否かという問題は、文言上の侵害か否かの問題であり、均等論の適用の話ではない。また、特許請求の範囲の記載のみからは技術的思想が把握できないような機能表現クレームの場合も上述のように均等論(文言侵害を越える拡張論)とは反対方向の話となる。
 したがって、機能表現クレームについての均等論の話というのは、構成要素が「AA手段」の場合に、AAの機能と同じでない機能であるBBを奏する「BB手段」に含まれるものについて、その侵害の可能性が検討されることである。
 ここで疑問が出るのは、果たしてそこまで均等論が広く適用されるべきなのかということである。異なる機能を有する構成についてまで均等論の適用を考えること自体、均等論の生まれてきた趣旨に反しているのではないか。このような疑問に対しては、これを特段に問題視することなく、最高裁の基準をそのまま適用すればよいという考えもなし得る所である。そして、そのような考え方であっても結論としては変わりない(最終的には均等論の適用基準に適合しない)のかもしれない。
 しかし、均等論の趣旨や如何なる場合になぜ均等論が必要なのかという適用の理念と特許請求の範囲の記載の仕方との関連が何もないとは言えないと思われる。したがって、お墨付きを貰った均等論とは言え、全ての特許請求の範囲にそのまま適用しても良いのかどうか、特に我々弁理士はクレームの作成の仕方という側面からの均等論の適用の検討も一度は行ってみるべきである。

7.機能表現クレームについての均等論適用はない

(1)機能表現クレームについても均等論を考慮すべきか否かについては、基本的には、今回の最高裁判決でも示された均等論採用の趣旨である「特許法の目的」、「社会正義」、「衡平の理念」に適合するもであるか否か、特に衡平の理念に適合するのかの検討がまず必要である。
 各発明の構成要素が、その発明全体の中で果たす機能が的確に捉えられ、構成要素がその「機能」によって限定されているときには、それ以上の(その文言を越える)権利範囲を確保することは、権利者の過保護と言う意味で衡平に反すると思われる。すなわち、最初から或る幅を持った概念で外延が決められているのであり、かつその範囲は、発明の保護すべき技術思想としての範囲であるから、その文言範囲で保護することで十分衡平が図られるからである。

(2)均等論の一判断基準である「置換可能性」との関係からの検討

「置換可能性」は、一般に作用、効果(機能)の同一性を害することなく置換が可能であるか否かと言うものであるが、機能表現クレームは、所定の範囲を有する機能により構成要素が限定されているものであるから、この均等論の一つの判断基準である「置換可能性」を測る基準の範囲を、既に文言上の範囲として有している。
 したがって、更に、それを広げる基準として「置換可能性」の要件を検討すること自体無理のあることということになる。すなわち、「機能」を変えなければ文言侵害を越える範囲を設定できないのであるからもともと「置換可能性」の要件を充足し得ないし、充足するとすること自体、矛盾する事となる。

(3)「置換可能性」における機能(作用、効果)の同一性の意味

「AA手段」という構成は、もともと具体的なものについて、或る選択範囲を有している。その外延は同一の機能を奏するものなのか否かで決定される。
 ここで、「AA」の機能も有してはいるが、AA以外の他の機能も併せて有しているようなイ号物件が出現したような場合どう扱うべきか。このような具体的な手段は、均等論の問題としてではなく文言上の権利侵害か否かの問題として検討されるべきである。すなわち、他の機能を備えていたとしても「AA」の機能を備えていることに変わりはなく、それに伴う当該発明の効果(質的に同一の効果)は達成される。したがって、そのイ号物件は、共通の機能の範囲、すなわち文言上の範囲に含まれるものと解されるべきである。
 このように、他の機能併有型の物件の場合でも、均等論の問題を検討するまでもなく文言上侵害の問題で片づければ足りる。

(4)実際に均等が検討された判例からの検討

1.例えば、均等範囲の肯定例としてあげられる「原木皮はぎ機」事件(旭川地裁、昭和55年(ワ)第61号、昭和58.3.24判決)の場合、登録請求の範囲では、「腕杵」を回動させる手段として「シリンダーのピストンロッド」を明示している。一方、イ号物件は、「腕杵」を回動させる手段として「クランク機構」を用いたものであるが、これについては、「置換可能性」、「置換容易性」の双方の要件が認められ均等とされた。すなわち、この実用新案の登録請求の範囲では、機能+手段の形式ではなく、選択余地のない「シリンダーのピストンロッド」という具体的な構成が記載されていたものである。「機能」の同一性という半径でその範囲を定めようとする機能表現クレーム要素ではなかった。
2.ボールスプライン事件の東京高裁判決では、「外筒」の備える要素の限定事項として「断面U字状の溝」や「同一深さ」などの記載がある。これらも、構造を具体的に特定する概念であり、機能的な表現ではない。これらに対して、イ号物件は、「断面半円形状の溝」、「約50ミクロン深い深さ」であるが、両者の技術的意義の共通性が指摘され実質的同一と認定された。
3.ベルクロファスナー事件の大阪地裁判決、昭和42年(ワ)第6444号(昭和44年4月2日)では、多数のループに対応するものとしての「鉤止部材」が特許請求の範囲に記載されていたのに対し、イ号物件は「きのこ形係合突片」であった。ループに引っかけるものという解決原理の同一性及び置換容易性を認め均等手段とされた(高裁では、逆の結論が出されている)。

 以上のように、判決で均等であることが認められた権利のクレームは、機能表現クレームではなく、具体的な構造や形状が特定されてしまうように構成要素が記載されているものである。ここでは、上記判例のような均等論の適用のなされた事例のクレームが、機能表現クレームの形式ではなかったことをもって、機能表現クレームに均等論の適用がないという結論に結び付けるという消極的な理屈付けを行っているのであるが、機能表現クレームの形式の場合に均等論の適用がないのであれば、積極的な方向の判例が生じることもないので、この様な消極的方向からの理由付けは、やむを得ない。
 なお、上記の各判例では、もし出願当初に共通の機能を有する範囲の上位概念で機能表現クレームを作成していても特許性に影響はなく、また、権利侵害の認定もより容易に行われたはずである。逆に言えば、そのような状況にあるクレームであるからこそ均等論の適用により救済し衡平を図ったということである。この様に、均等論の適用は、本来より上位概念の機能的表現(上記の例で言えば、「昇降駆動手段」や「引っかけ手段」)でクレームを作成することが可能であったにもかかわらず、より具体的レベルで記載してしまったような場合に、衡平の観点から権利範囲の拡張用の理論として適用されるものと考えられる。
 米国の仮想的クレームのテストのように、上位概念の機能表現クレームで記載していれば、そもそも特許性に問題があるような場合には、均等論の適用は、認められるべきではない。したがって、均等論の適用がなされ得ると言うことは、本来、機能表現クレーム形式での作成が可能であったと言うことでもある。
 このことからも、適正に(的確な機能を捉えて)機能表現を用いたクレームが作成されていれば、均等論の適用の問題は生じないと言える。したがって、侵害事件において「均等論」の適用がなされてはじめて侵害が認定されたと言うことは、少なくとも我が国では明細書の作成者にとってあまり名誉なことではない場合が多いと言うことである。ただ、出願時に発明者もその上位概念たる的確な「機能」を認識しておらず、また出願時の技術水準では認識し得なかったような場合はやむを得ない。その場合でも、今回の最高裁で示されたように、侵害時を基準にして、置換可能性を判断するとすれば、そのような発明者の主観的状況とは無関係に、「当業者」が侵害時に置換可能であったか否かという判断の下で均等論は認められ得ると言うことになる。

(5)その他の検討すべき事項

1.機能相互の広狭関係
機能表現クレームに均等論の適用はないと考えるとしても、機能表現クレームを分類分けするという検討は必要であると考えられる。すなわち、機能+手段で示された構成要素とそれに含まれるより具体的な構成物との関係は、上位概念、下位概念の関係であるが、この関係(機能の同一性)の下で権利範囲を下位概念から上位概念の範囲へと広げるのが均等論であるとすると、機能表現の場合でも上位、下位の関係に有るものが存在する場合には、具体的構成が特定されているものの均等論適用を検討するのと同様に、狭い範囲の機能表現に対し、より広い機能範囲までの均等を考える余地は有るのではないかという考え方もあり得る。
2.具体的検討
その具体例としては、必要以上に狭い範囲の機能を特許請求の範囲で記載してしまったような場合、例えば、発明全体におけるその構成要素の機能を的確に捉えていないことから必要以上の機能限定がなされた場合などが考えられる。
 例えば、ある物を上下動させる手段が必要であるということでクレームに「昇降手段」という機能表現を使用したが、その構成要素の果たすべき機能は上下動に限らず水平移動も含めてその物の位置を移動させるることのできる手段で有れば良かったと言うような場合である。この場合、水平に移動させる手段を使用したイ号物件では、「昇降手段」は使用されていない。しかし、発明の中で実質に奏している機能は同様であり、位置移動させると言う上位の機能で考えれば置換可能な範囲であるとも考えられる。すなわち、その手段の技術的役割を的確に捉えて、より広い範囲(上位概念)の機能を記載すべきであったにもかかわらず限定しすぎた機能を記載してしまったと言うことである。その結果、共通する上位の機能(最低必要な機能)を有し、かつクレーム記載の機能とは異なる機能の構成要素を備えたイ号物件が生じ得ることになるのである。
 このような場合、均等論を適用してイ号物件を侵害品とすべきであろうか。これは、必要以上の数値限定を行ってしまったような機能表現でない具体的な構成要素記載のクレームの均等論適用例と同様の状況であり、機能表現を用いたと言うだけで初めから均等を認めないというのは、衡平の理念からも妥当でなく、均等論を適用すべきであると考えることもできる。
 しかし、本稿では、これまで機能表現クレームに均等論の適用なしということで述べてきたわけであるから、上記のような場合、すなわち、機能に広狭の関係があり構成要素の機能を不的確に狭いものとしてクレーム作成がなされているような場合にも、例外的に均等論の適用を認めるというのではなく、敢えて、このような場合も均等論は適用されないと主張したい。すなわち、機能表現が認められる自由度が高い我が国において、技術思想としての幅を初めから有する概念である機能表現を行う場合、その機能の範囲のみしか権利範囲は認められないとの認識を持つべきである。それが機能表現クレームを行う場合のリスク面であり、むしろ公平の理念や法的安定性に適合するものであると考える。
3.なお、特許請求の範囲の構成要素の機能限定に対し、イ号物件の該当する構成要素の機能がその機能を含む機能併有型のものである場合については上記7.(3)で述べた。

8.まとめ

的確に機能表現された特許請求の範囲についての均等論の適用はそもそも矛盾する事項であり、また、その権利保護の観点からも、もともと幅を有する「機能」の範囲に含まれるものかを検討し、その範囲で権利侵害を認めることで充分な権利保護が図られるものと考える。
 なお、米国でも、USP112条第6段の適用がなされた上で、更に、通常の均等論の適用がミーンズ+ファンクションの表現で表された構成に対してなされるという明確な判決は今のところないと聞いている。このことはUSP112条第6段の権利範囲の制限という趣旨からして当然といえば当然である。逆に、ミーンズ・プラス・ファンクションの記載形式でUSP112条第6段の検討がなされ、均等物にならないとされたものは通常の均等論侵害にもならないという方向の判決は存在する(OdeticsInc.v.StorageTechnologyCorp.E.D.Va,No.95-881-A,1998年7月31日)。
 最後に、我が国の機能表現クレーム記載の自由度を考慮して、機能表現を用いないクレームに関する均等論の適用について考えると、我が国の方が「均等論」の適用に厳格(消極的)であるというのは自然なことと考えられる。すなわち、機能表現の使用に対する規制状況の相異の上で具体的な構成限定を行って作成されたクレームに基づく権利範囲の判断を行うに付いて、均等論の基準が米国の場合と同様である必要はないし、逆にほぼ同様の基準であるとした場合の均等論適用の厳格性は異なっているのは当然であると思う。

以上